キリンの首は伸ばそうとして長くなった? 首が長い理由はまだ決着していない

キリンの首は、高い木の葉を食べようと伸ばし続けたから長くなった。学校でそう聞いた人も多いはずです。けれど研究者の間では、この説明はとうに使われていません。しかも「では本当の理由は何か」は、200年たった今も決着していません。
3行でわかる
- 「伸ばそうとして長くなった」(ラマルクの説)は、今の研究では支持されていません。生きている間に伸びた首は、子に受け継がれないからです。
- 首の長い個体がより多く子を残し、その性質が広まった、という自然選択の考え方で説明されます。
- ただ、何が「首の長い個体」を有利にしたのかは、高い葉を食べる競争説とオスの首相撲説などで割れています。
01 わかっていることキリンは首を伸ばそうとして長くなったの?
いいえ。生きている間に体を使って伸ばした部分は、子に受け継がれません。今の研究では、首の長い個体がたまたま多く子を残し、その性質が世代を重ねて広まった、と考えます(自然選択)。
「よく使う部分は発達し、それが子に伝わる」という考えは、ラマルクの説として知られています。キリンの首は、ダーウィンの自然選択と並べて、この説の例として長く語られてきました [3]。
自然選択(生まれつきの違いのうち、生き残りや子を残すのに有利な性質が、次の世代に多く残ること)で考えると、順番が逆になります。首を伸ばす努力ではなく、生まれつき首が少し長い個体が多く子を残し、その子もまた首が長い、のくり返しです。
つまり「首が長くなった」こと自体はわかっています。わかっていないのは、首の長さがどんな場面で有利だったのか、のほうです。
02 どうやってわかったのかどうやって理由を確かめようとしてきたの?
野外での観察、囲いを使った実験、化石の首の骨の比較、遺伝子の比較の4つの方向から調べられています。結果は1つの説にまとまらず、複数の理由が重なったという見方もあります。
有力な仮説シモンズとシェパーズ(1996年、American Naturalist)[1]
乾季でも、キリンはよく低い木から食べていました。メスは食事の時間の半分以上、首を水平にしていました。そこで、オスどうしが首をぶつけ合う争い(首相撲)で、首の長いオスが有利だったという説を出しました。
どうやって: アフリカでキリンの食べ方を観察し、首と脚の長さの比をオカピと比べました。首の長いオスほど優位で、メスに近づける機会が多いことも報告しています。
有力な仮説キャメロンとデュ・トワ(2007年、American Naturalist)[2]
囲いでほかの草食動物から守った木では、低い枝にも葉がたっぷり残りました。守らなかった木では、高い所ほど葉が多く残っていました。
どうやって: 南アフリカのクルーガー周辺で、アカシアの木に囲いを作って1年の成長期を比べました。キリンが高い所で食べるのは、背の低い草食動物との取り合いを避けるためだ、という「高い葉の競争説」を実験で支える初めての結果とされています。
わかっているダノウィッツら(2015年、Royal Society Open Science)[3]
首の骨が長くなる変化は、キリン科が現れるより前に始まっていました。首は一度に伸びたのではなく、骨の前側、次に後ろ側と、段階を踏んで長くなっていました。
どうやって: 絶滅したものを含むキリン科11種の首の骨71点を比べました。化石のサモテリウムと今のキリンの3番目の首の骨を比べると、引き伸ばしの度合いは約2.0倍でした。
有力な仮説ワンら(2022年、Science)[4]
中新世の初めのキリンの仲間ディスコケリクスは、円盤のような頭飾りと、知られている哺乳類でもっとも複雑な頭と首の関節を持っていました。激しい頭突きに耐える形だと分析されています。
どうやって: 中国で見つかった化石の頭骨と首の骨を、コンピューターで力のかかり方を計算して調べました。歯の成分からは、今のキリンのように高い所の葉を食べていた可能性も示されました。オスどうしの争い(性選択)が頭と首の形に関わった、という見方を支えます。
わかっているアガバら(2016年、Nature Communications)[5]
キリンと、いちばん近い親戚のオカピのゲノム(全遺伝情報)を比べると、骨の形づくりと心臓や血管の発達の両方に関わる遺伝子(HOX、NOTCH、FGFのしくみ)に、キリンだけの変化が見つかりました。
どうやって: 2種のゲノムを読み、キリン側だけで変わった遺伝子を探しました。背の高さと、高い頭まで血を送る心臓のしくみが、少数の遺伝子の変化を通じて一緒に変わった可能性があります。
03 数字と例えでいうと首はどれくらい、いつから長くなったの?
キリン科が現れたのはおよそ1900万〜1600万年前で、首の骨が長くなる変化はそれより前から始まっていました。首の骨1つの長さは、化石の親戚の約2倍になっています。
| 項目 | 値 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| 首の骨(3番目)の引き伸ばし | サモテリウムの約2.0倍(95%の範囲で1.7〜2.3倍)[3] | 同じ骨を、縦に倍の長さまで引き伸ばした形 |
| キリン科が現れた時期 | 約1900万〜1600万年前 [3] | 1年を1ミリにすると16〜19キロ。電車で何駅も先 |
| キリンが葉を食べる高さ | 最大で約5メートル [3] | 身長1.7メートルの人の約3倍 |
| 乾季のメスの食べ方 | 食事の時間の半分以上は首が水平 [1] | 高い所の葉ばかり食べているわけではない |
04 まだわかっていないこと首が長い理由で、まだ決着していないことは?
何が首の長い個体を有利にしたのかは、決着していません。高い葉の競争説と首相撲説のほか、両方が重なったという見方もあります。
- 高い葉の競争か、首相撲か囲いの実験は競争説を支え [2]、観察と化石は首相撲の役割を示します [1][4]。オスとメスで首の重さの増え方に大きな差がないという報告もあり、性選択だけでは説明しにくいとする研究者もいます [3]。
- ほかの理由が重なった可能性食べ物の競争とオスどうしの争いの両方が首の長さに効いた、という見方もあります [3]。どちらがどれだけ効いたのかを比べる方法は、まだありません。
- どの遺伝子の変化が首を伸ばしたのかゲノムの比較で候補の遺伝子は見つかりましたが [5]、それを実際に変えると首が長くなるかは確かめられていません。
05関連する記事
06よくある質問
ラマルクの説は完全にまちがいなの?
「生きている間に使って発達した体の部分が、そのまま子に伝わる」という形では、キリンの首のような体のつくりは説明できません。今の研究では、生まれつきの違いが自然選択でふるい分けられると考えます。
キリンの首が長い理由はどれが正解?
まだ決着していません。高い所の葉を食べる競争が有利だったという説と、オスどうしの首相撲で首の長いオスが有利だったという説が主で、両方が重なったという見方もあります。
キリンにいちばん近い動物は?
森にすむオカピです。オカピの首は長くありません。両者のゲノムを比べることで、キリンだけに起きた遺伝子の変化が調べられています。
出典
- Simmons RE, Scheepers L (1996). Winning by a Neck: Sexual Selection in the Evolution of Giraffe. The American Naturalist 148(5), 771-786. https://doi.org/10.1086/285955
- Cameron EZ, du Toit JT (2007). Winning by a Neck: Tall Giraffes Avoid Competing with Shorter Browsers. The American Naturalist 169(1), 130-135. https://doi.org/10.1086/509940
- Danowitz M, Vasilyev A, Kortlandt V, Solounias N (2015). Fossil evidence and stages of elongation of the Giraffa camelopardalis neck. Royal Society Open Science 2, 150393. https://doi.org/10.1098/rsos.150393
- Wang SQ, Ye J, Meng J, et al. (2022). Sexual selection promotes giraffoid head-neck evolution and ecological adaptation. Science 376, eabl8316. https://doi.org/10.1126/science.abl8316
- Agaba M, Ishengoma E, Miller WC, et al. (2016). Giraffe genome sequence reveals clues to its unique morphology and physiology. Nature Communications 7, 11519. https://doi.org/10.1038/ncomms11519


