体の起源

魚はどうやって陸に上がったのか ティクターリク発見の物語

2026年10月28日更新・約8分で読めます

ティクターリクの復元図
Photo: Zina Deretsky, National Science Foundation / Public domain / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と博物館・研究機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

私たちの腕の骨は、もとをたどると魚のひれの骨です。では、ひれが足になる途中の生き物はいたのでしょうか。2004年、研究者たちは「この時代の、この種類の岩を探せば見つかるはず」と予想して北極圏へ行き、本当にそれを掘り当てました。

3行でわかる

  1. 足を持つ動物(四肢動物。両生類・爬虫類・鳥・哺乳類のなかま)は、ひれの中に骨を持つ魚のなかまから生まれた。
  2. 2004年にカナダ北極圏のエルズミア島で、魚と四肢動物の両方の特徴を持つティクターリク(約3億7500万年前)が見つかった。
  3. ただし、もっと古い足あとの化石も見つかっており、「いつ・どこで最初に上陸したか」はまだ決着していない。

01 わかっていること魚は本当に陸の動物のご先祖なの?

はい。カエルもトカゲも鳥もヒトも、ひれの中に太い骨を持つ魚のなかま(肉鰭類)から分かれた子孫です。この関係は化石と体のつくりの比較で確かめられています。

今の魚の多くは、ひれが細い骨の筋だけでできています。ところがシーラカンスやハイギョのなかまは、ひれの根もとに太い骨があります。この「肉鰭類(にくきるい。ひれに肉と骨の芯がある魚)」が、足を持つ動物のご先祖のなかまです。

Daeschlerらの論文は、四肢動物が肉鰭類と近いことは「よく確かめられている」と書いています。わからなかったのは、ひれが足に変わっていった順番でした。その途中を示す化石が足りなかったのです。

大事なのは、魚が「陸に上がろうとして」足を作ったわけではないことです。浅い水辺で体を支えやすいひれを持つ個体が多く子を残し、その形が少しずつ広まった、と考えられています。

02 どうやってわかったのかどうやってティクターリクを見つけたの?

狙った時代(約3億7500万年前)の、浅い川や水辺でできた岩が地表に出ている場所を選び、北極圏で4回の夏をかけて探しました。2004年に見つかった化石は、予想どおり魚と四肢動物の中間の体でした。

わかっているシカゴ大学の発表(2006年)[5]

チームは「時代も、昔の環境もちょうどよい」岩がエルズミア島にあると考え、4回の夏の調査の末、2004年に化石を見つけた。体長は1.2〜2.7メートルほど(4〜9フィート)。

どうやって: 見つかる時代と環境を先に絞り込み、その条件に合う地層が地表に出ている場所を歩いて探した。名前「ティクターリク」は、地元のイヌイットの言葉で「浅い水にいる大きな魚」。

わかっているDaeschler, Shubin, Jenkins(2006年、Nature)[1]

うろこ・ひれの筋・あごは古い魚と同じなのに、首を動かせる・手首の関節がある・頭の骨が短いなど、四肢動物に近い特徴を合わせ持っていた。

どうやって: 保存のよい複数の標本の骨を一つずつ調べ、ほかの肉鰭類や初期の四肢動物と比べた。地層からは、浅い水辺に暮らしていたと考えられる。

わかっているShubin, Daeschler, Jenkins(2006年、Nature / 2014年、PNAS)[2,3]

胸びれの先の骨の並びと関節は、初期の四肢動物の手足の骨と似ていた。肩とひじを曲げ、地面に体を支える姿勢もとれた。2014年には、腰の骨(骨盤)がほかのひれのある魚よりずっと大きく頑丈だったこともわかった。

どうやって: 胸びれと、のちに掘り出した腰の骨と後ろのひれを、立体のまま岩から取り出して形を調べた。

有力な仮説Niedźwiedzki ら(2010年、Nature)[4]

ポーランドで、足を持つ動物の足あとの化石が見つかった。いちばん古い四肢動物の骨の化石より約1800万年、ティクターリクのなかまより約1000万年古い。

どうやって: 潮が満ち引きする干潟でできた岩の表面に残った足あとを調べ、地層の年代を確かめた。上陸の時期と場所の見直しを迫る発見になった。

足あとの発見で、ティクターリク自身は「陸に上がった最初の動物」ではないことがはっきりしました。ティクターリクは、ご先祖そのものではなく、ご先祖に近い親戚が当時まだ生き残っていた姿と考えるのが自然です。

03 数字と例えでいうと3億7500万年前ってどれくらい昔?

地球の歴史46億年を1年のカレンダーにすると、ティクターリクがいたのは12月2日ごろです。ヒトの仲間が出てくるのは大みそかの夜なので、魚が水辺で足に近いひれを持った日はずっと前です。

項目値身近な例えでいうと
ティクターリクの年代約3億7500万年前 [5]地球の歴史を1年にすると12月2日ごろ
体の大きさ約1.2〜2.7メートル [5]小学生の背丈から、大人2人分弱の長さまで
見つかるまで4回の夏の調査 [5]北極圏の夏の短い期間を4年分
ポーランドの足あと最古の四肢動物の骨より約1800万年古い [4]1年のカレンダーで約1.4日早い

カレンダーの例えは、3億7500万÷46億×365日=約29.8日で計算しました。12月31日の終わりから約30日さかのぼると、12月2日ごろになります。

04 まだわかっていないことまだ謎なのは何?

最初に陸を歩いた動物がいつ・どこにいたかは決着していません。骨の化石より古い足あとがあるため、骨の化石はまだ見つかっていない時代の空白を抱えています。

05関連する記事

06よくある質問

ティクターリクは私たちの直接のご先祖ですか?

そうとは言えません。ティクターリクより古い足あとの化石が見つかっているため、ティクターリクはご先祖に近い親戚が生き残っていた姿と考えるのが自然です。

魚は陸に上がろうとして足を作ったのですか?

いいえ。浅い水辺で体を支えやすいひれを持つ個体が多く子を残し、その形が世代を重ねて広まったと考えられています。目的を持って変わったわけではありません。

ティクターリクという名前の意味は?

見つかった土地の言葉(イヌイットの言葉)で「浅い水にいる大きな魚」という意味です。化石は、カナダ北極圏のヌナブト準州にあるエルズミア島で見つかりました。

出典

  1. Daeschler EB, Shubin NH, Jenkins FA Jr (2006). A Devonian tetrapod-like fish and the evolution of the tetrapod body plan. Nature 440, 757-763. https://doi.org/10.1038/nature04639
  2. Shubin NH, Daeschler EB, Jenkins FA Jr (2006). The pectoral fin of Tiktaalik roseae and the origin of the tetrapod limb. Nature 440, 764-771. https://doi.org/10.1038/nature04637
  3. Shubin NH, Daeschler EB, Jenkins FA Jr (2014). Pelvic girdle and fin of Tiktaalik roseae. PNAS 111, 893-899. https://doi.org/10.1073/pnas.1322559111
  4. Niedźwiedzki G, et al. (2010). Tetrapod trackways from the early Middle Devonian period of Poland. Nature 463, 43-48. https://doi.org/10.1038/nature08623
  5. UChicago Medicine (2006). Newly found species fills evolutionary gap between fish and land animals. https://www.uchicagomedicine.org/forefront/news/2006/april/newly-found-species-fills-evolutionary-gap-between-fish-and-land-animals