体の起源

盲腸(虫垂)と尾てい骨は進化の名残? 「役に立たない器官」の本当のところ

2026年10月28日更新・約8分で読めます

尾のないテナガザル。ヒトと同じく、尾をなくした類人猿の仲間
Photo: Tanviralinbd / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と博物館・研究機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

盲腸(正しくは虫垂)は「進化の名残で、もう役に立たない」と聞いたことがある人は多いはずです。けれど哺乳類を数百種比べた研究では、虫垂はなくなるどころか、何度も別々に現れていました。一方、尾てい骨は、私たちの祖先が尾をなくした跡だとはっきりわかっています。

3行でわかる

  1. 尾てい骨は、ヒトと類人猿の祖先が約2500万年前に尾をなくした跡です。尾の骨が3〜5個だけ残っています。
  2. 虫垂は、哺乳類の中で少なくとも32回別々に現れ、なくなったのは7回未満でした。役に立つから残った、という見方が強まっています。
  3. 虫垂の役目は「腸の善玉の細菌の避難所」という説が有力ですが、まだ確かめ切れてはいません。

01 わかっていること盲腸と尾てい骨は、本当に進化の名残なの?

尾てい骨は名残です。祖先にあった尾が短くなり、骨が数個だけ残りました。虫垂は昔は名残とされましたが、今は役目のある器官と考える研究者が増えています。

ふだん「盲腸」と呼ぶのは、大腸の入り口にある袋(盲腸)から細長くのびた部分で、虫垂といいます。ヒトの虫垂は長さ5〜10センチ、太さ0.5〜1センチです [3]。

虫垂は長いあいだ、役目のない名残や、昔は消化に使った器官の名残と考えられてきました。2013年の研究は、哺乳類の比較から、ダーウィンの考えの一部を否定しています [2]。

名残の器官(痕跡器官)とは、祖先で使われていた形が、小さくなったり役目を変えたりして残ったものです。名残であることと、今まったく役に立たないことは、同じではありません。

02 どうやってわかったのか名残かどうかは、どうやって調べたの?

虫垂は、何百種もの哺乳類の腸を比べて、どの系統で現れたり消えたりしたかを数えました。尾は、尾のあるサルとないヒト・類人猿の遺伝子を比べ、マウスで確かめました。

わかっているシアら(2024年、Nature)[4]

ヒトと類人猿の祖先は、約2500万年前に旧世界ザルと分かれたころ尾をなくしたと考えられています。今のヒトには、尾の骨が3〜5個だけ残って尾てい骨になっています。

どうやって: 尾の形づくりに関わるTBXTという遺伝子に、ヒトと類人猿だけが持つ短いDNAの差し込みを見つけました。同じしくみをマウスに入れると、尾がなくなるか短くなりました。

わかっているスミスら(2013年、Comptes Rendus Palevol)[2]

虫垂は、哺乳類の進化の中で少なくとも32回、別々に現れていました。なくなったのは7回未満です。

どうやって: 361種の哺乳類の腸のデータを集め、系統樹(生き物の家系図)の上で虫垂の有無をたどりました。食べ物や群れの大きさとの関係は見つかりませんでした。

わかっているスミスら(2009年、Journal of Evolutionary Biology)[1]

虫垂は、哺乳類の中で8000万年以上保たれてきました。有袋類の一部と、ヒトを含むグループで、別々に現れています。

どうやって: 哺乳類の腸の形を比べ、虫垂の形を3つの型に分けたうえで、系統ごとの分布を調べました。

有力な仮説ボリンジャーら(2007年、Journal of Theoretical Biology)[3]

虫垂は、腸の中の役に立つ細菌の「避難所」だという説を出しました。ひどい下痢で腸の中身が流れ出たあと、虫垂に残った細菌が腸に戻って増え直す、という考えです。

どうやって: 腸の壁に細菌が膜のように集まる性質(バイオフィルム)と、虫垂のまわりに免疫の組織が多いことから考えた説です。実験で直接確かめたものではありません。

有力な仮説スミスら(2017年、Comptes Rendus Palevol)[5]

虫垂がある種ほど、盲腸に免疫の組織(リンパ組織)が多い傾向がありました。虫垂に免疫の役目があるという説を支える結果です。

どうやって: 533種の哺乳類について、虫垂の有無と腸の形、食べ物、群れの大きさなどを、系統を考えに入れて比べました。

03 数字と例えでいうと虫垂と尾てい骨を数字で見ると?

虫垂は8000万年以上保たれ、少なくとも32回現れました。尾は約2500万年前になくなり、骨が3〜5個残りました。

項目値身近な例えでいうと
ヒトの虫垂の長さ5〜10センチ [3]はがきの短い辺(10センチ)以下
虫垂が別々に現れた回数少なくとも32回。なくなったのは7回未満 [2]現れた回数が、消えた回数の4倍以上
虫垂が保たれてきた期間8000万年以上 [1]1年を1ミリにすると80キロ以上
尾がなくなった時期約2500万年前 [4]1年を1ミリにすると25キロ
尾てい骨に残る尾の骨3〜5個 [4]片手の指で数えられるほど

比べた種の数は、2013年の研究で361種 [2]、2017年の研究で533種です [5]。

04 まだわかっていないこと虫垂の役目で、まだ謎なのは?

虫垂の本当の役目と、何度も現れた理由は、まだ決着していません。尾をなくしたことが、ヒトの体にどんな得と損をもたらしたかも調べている途中です。

05関連する記事

06よくある質問

盲腸(虫垂)は取っても大丈夫なの?

虫垂炎などで取る手術は広く行われています。ただ、手術が必要かどうかは体の状態で決まるので、医師の判断に従ってください。この記事は進化の研究を紹介するもので、治療の助言ではありません。

尾てい骨は本当に尾の名残なの?

はい。尾てい骨は、尾の骨が3〜5個だけ残ったものです。ヒトと類人猿の祖先が尾をなくしたのは約2500万年前と考えられています。

痕跡器官は全部いらないものなの?

いいえ。祖先の形が小さくなって残ったものでも、別の役目を持つことがあります。虫垂はその例で、免疫に関わるという研究が増えています。

出典

  1. Smith HF, Fisher RE, Everett ML, et al. (2009). Comparative anatomy and phylogenetic distribution of the mammalian cecal appendix. Journal of Evolutionary Biology 22. https://doi.org/10.1111/j.1420-9101.2009.01809.x
  2. Smith HF, Parker W, Kotzé SH, Laurin M (2013). Multiple independent appearances of the cecal appendix in mammalian evolution and an investigation of related ecological and anatomical factors. Comptes Rendus Palevol 12, 339-354. https://doi.org/10.1016/j.crpv.2012.12.001
  3. Bollinger RR, Barbas AS, Bush EL, et al. (2007). Biofilms in the large bowel suggest an apparent function of the human vermiform appendix. Journal of Theoretical Biology 249. https://doi.org/10.1016/j.jtbi.2007.08.032
  4. Xia B, Zhang W, Zhao G, et al. (2024). On the genetic basis of tail-loss evolution in humans and apes. Nature 626. https://doi.org/10.1038/s41586-024-07095-8
  5. Smith HF, Parker W, Kotzé SH, Laurin M (2017). Morphological evolution of the mammalian cecum and cecal appendix. Comptes Rendus Palevol 16. https://doi.org/10.1016/j.crpv.2016.06.001