いま起きている進化

ヒトはいまも進化しているのか

2026年10月28日更新・約6分で読めます

標高の高いチベット高原
Photo: Jan Kranendonk (https://www.jankranendonk.nl) / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査論文と博物館・研究機関の資料をAIが調べ、内容を確かめて整理しました(出典は末尾)。

「ヒトは文明を持ったから、もう進化していない」と聞くことがあります。でもDNAを調べると、ここ1万年ほどの間にも、集団の中で特定の遺伝子が急に増えた跡が見つかっています。

3行でわかる

  1. ヒトも進化は続いています。進化とは、世代を重ねて集団の遺伝子の割合が変わることで、それは今も起きています。
  2. 大人になっても牛乳の糖(乳糖)を分解できる性質は、ヨーロッパとアフリカで別々の遺伝子の変化から広まりました。アフリカの例は、ここ約7000年のうちに広まったと推定されています。
  3. チベットの高地の人々の遺伝子EPAS1は、ヒトの遺伝子で知られている中で最も速く割合が変わった例の一つで、その型は絶滅した人類デニソワ人(またはその近い仲間)から受け継がれたと考えられています。

01 わかっていることヒトの進化は止まったの?

止まっていません。進化は「より優れたものになること」ではなく、世代を重ねて集団の遺伝子の割合が変わることです。ヒトでも、ここ数千年に割合が大きく変わった遺伝子が見つかっています。

遺伝子には少しずつ違う型があります。ある環境で多く子を残せる型を持つ人が多いと、次の世代ではその型の割合が増えます。

ヒトがアフリカを出て、寒い土地や高地に住み、家畜を飼い始めると、選ばれる性質も地域ごとに変わりました。

その跡は、今の人のDNAの並び方と、昔の人の骨から取り出したDNAの両方に残っています。

02 どうやってわかったのかどうやって確かめたの?

今の人のDNAの並び方の特徴、数千年前の人骨から取り出したDNA、土器に残った乳の脂などを比べて、いつ・どこで遺伝子の割合が変わったかを調べました。

わかっているティシュコフら(2007年、Nature Genetics)[1]

タンザニア・ケニア・スーダンの470人を調べ、大人になっても乳糖を分解できる性質に関わる、ヨーロッパとは別の遺伝子の変化を3つ見つけました。そのうち1つには、ここ約7000年のうちに急に広まった跡がありました。

どうやって: 乳糖を分解できるかどうかを調べ、DNAの違いと照らし合わせました。ある変化のまわりのDNAが長く同じ並びのまま残っていることから、短い期間で広まったと推定しました。

わかっているエバーシェッドら(2022年、Nature)[2]

大人でも乳糖を分解できる性質は、ヨーロッパなどでここ1万年に最も強く選ばれた、1つの遺伝子で決まる性質だとされています。ただ、選ばれた理由は「乳をたくさん飲んだから」だけでは説明しきれませんでした。

どうやって: ヨーロッパの550か所以上の遺跡の土器約7000点に残った脂を分析して、9000年間の乳の利用を地図にしました。今の50万人のデータ(UKバイオバンク)とも比べました。

わかっているイーら(2010年、Science)[3]

チベットの人50人の遺伝子を読むと、低い酸素への反応に関わる遺伝子EPAS1のある変化で、チベットの人と漢族の人との頻度の差が78%ありました。著者らは、ヒトの遺伝子でこれまで見られた中で最も速い頻度の変化だとしています。

どうやって: 遺伝子のうちたんぱく質をつくる部分(ヒトの遺伝子の92%分)を読み、集団の間で割合が大きく違う遺伝子を探しました。

わかっているウエルタ=サンチェスら(2014年、Nature)[4]

チベットの人で選ばれたEPAS1の型は、デニソワ人(絶滅した別の人類)と、チベットの人にだけ見つかりました。かつての交わりで受け継いだ型が、高地で多く残ったと考えられます。

どうやって: チベットの人40人と漢族の人40人のEPAS1のまわりを読み直し、世界の集団やデニソワ人のDNAと比べました。

わかっているマシソンら(2015年、Nature)[5]

紀元前6500年から紀元前300年に西ユーラシアで暮らした230人の古代のDNAから、食べ物・肌や髪の色・免疫に関わる遺伝子で、選択の跡が見つかりました。

どうやって: 同じ地域の、時代の違う人骨のDNAを並べ、遺伝子の割合が時代とともにどう変わったかを直接見ました。

03 数字と例えでいうとどれくらいの速さなの?

数千年、世代にすると数百世代で、集団の中の割合が大きく変わった例があります。ヒトの歴史全体から見ると、ごく最近の出来事です。

項目値身近な例えでいうと
アフリカで乳糖を分解できる型が広まった時期ここ約7000年のうち [1]ピラミッドが造られたころ(約4500年前)より少し前から今までの間
ヨーロッパの土器の調査約7000点・550か所以上・9000年分 [2]新石器時代から乳が広く使われていた
EPAS1の頻度の差(チベットと漢族)78% [3]その型の割合が、2つの集団で78ポイントちがう
古代DNAの人数230人(紀元前6500〜前300年)[5]今から約8500〜2300年前の人たち
今の人のDNAで見える最近の選択約2000〜3000年 [6]日本なら弥生時代のころから今まで

04 まだわかっていないことまだわかっていないことは?

どの性質がなぜ選ばれたのかは、はっきりしない例が多く残っています。背の高さのように多くの遺伝子が少しずつ関わる性質では、以前の結論が見直されています。

05関連する記事

06よくある質問

医療が進んだから、もう自然選択は働かないのでは?

弱まった選択もありますが、なくなってはいません。生まれる子の数が人によって違う限り、遺伝子の割合は世代ごとに変わります。何が選ばれるかが昔と違うだけです。

牛乳でおなかがゴロゴロするのは、進化が遅れているから?

いいえ。大人になると乳糖を分解する力が落ちるのは、ほ乳類にもともとある性質です。分解できる性質が一部の地域で広まったのは、そこでたまたま有利だった結果で、優劣ではありません。

ヒトはこれからどう進化するの?

予測はできません。進化には目的や向かう先がなく、その時の環境で多く子を残せた性質が増えるだけだからです。環境が変われば、選ばれる性質も変わります。

出典

  1. Tishkoff, S. A. et al. (2007). Convergent adaptation of human lactase persistence in Africa and Europe. Nature Genetics 39, 31-40. https://doi.org/10.1038/ng1946
  2. Evershed, R. P. et al. (2022). Dairying, diseases and the evolution of lactase persistence in Europe. Nature 608, 336-345. https://doi.org/10.1038/s41586-022-05010-7
  3. Yi, X. et al. (2010). Sequencing of 50 Human Exomes Reveals Adaptation to High Altitude. Science 329, 75-78. https://doi.org/10.1126/science.1190371
  4. Huerta-Sánchez, E. et al. (2014). Altitude adaptation in Tibetans caused by introgression of Denisovan-like DNA. Nature 512, 194-197. https://doi.org/10.1038/nature13408
  5. Mathieson, I. et al. (2015). Genome-wide patterns of selection in 230 ancient Eurasians. Nature 528, 499-503. https://doi.org/10.1038/nature16152
  6. Field, Y. et al. (2016). Detection of human adaptation during the past 2000 years. Science 354, 760-764. https://doi.org/10.1126/science.aag0776
  7. Berg, J. J. et al. (2019). Reduced signal for polygenic adaptation of height in UK Biobank. eLife 8, e39725. https://doi.org/10.7554/eLife.39725