ヒトはいつアフリカを出たのか 化石とDNAでわかったこと

「人類は20万年前に東アフリカで生まれ、6万年前ごろにアフリカを出た」。少し前まではこう教わることが多くありました。この10年ほどで、化石とDNAの両方から、話がもっと古く、もっと入り組んでいることがわかってきました。
3行でわかる
- モロッコのジェベル・イルードの化石から、ホモ・サピエンスは約31万5000年前にはアフリカにいたとわかった。
- イスラエルやギリシャには約18万〜21万年前のホモ・サピエンスの化石があり、外へ出たのは1回ではなかった。
- ただし、今のアフリカの外の人の祖先は、約5万年前ごろに1つの集団にまとまると、DNAから推定されている。
01 わかっていることヒトがアフリカを出たのはいつ?
一度ではなく何度も出ています。20万年前より前に外へ出た集団の化石もありますが、今のアフリカの外の人の祖先にあたる集団が広がったのは約5万年前ごろと考えられています。
ホモ・サピエンス(今の私たちと同じ種)は、アフリカで生まれました。これは化石とDNAの両方が示していて、研究者の間でほぼ一致しています。
わかってきたのは「出た」の中身です。早い時期に外へ出た集団の骨は見つかりますが、その人々が今の人の祖先になったとは限りません。
化石は「その時そこに誰かがいた」ことを示し、DNAは「今の人の祖先がどこを通ったか」を示します。この2つを分けて考えるのが大事です。
02 どうやってわかったのか化石とDNAで何がわかったの?
化石の年代測定は、ホモ・サピエンスの始まりと早い時期の外出を示しました。古い人骨のDNAは、今の人の祖先がいつ1つの集団だったかを示しました。
わかっているHublin ら/Richter ら(2017年、Nature)[1,2]
モロッコのジェベル・イルードの人骨と石器は約31万5000年前(誤差±3万4000年)。顔や歯は今の人に近く、頭の後ろの形はより古い特徴を残していた。
どうやって: 火で焼けた石器に残る光の量から年代を測る方法(熱ルミネッセンス法)で測った。歯の別の方法でも約28万6000年前と出た。
わかっているHershkovitz ら(2018年、Science)[3]
イスラエルのミスリヤ洞窟で見つかったホモ・サピエンスの上あごは、約17万7000〜19万4000年前のもの。それまでアフリカの外で最古とされた約9万〜12万年前の化石より古かった。
どうやって: 上あごと歯の形をほかの人類と比べ、見つかった地層と遺物の年代を測った。
有力な仮説Harvati ら(2019年、Nature)[4]
ギリシャのアピディマ洞窟の頭骨の1つは21万年前より古く、今の人と古い人類の特徴が混ざっていた。ここは早期のホモ・サピエンスの化石とする見方が示された。
どうやって: ゆがんだ頭骨をコンピューターの中で組み立て直し、ウランの放射線で年代を測った。かけらが少ないため、別の解釈をする研究者もいる。
わかっているSümer ら(2024年、Nature)/Iasi ら(2024年、Science)[5,6]
今のアフリカの外の人はみな、約4万5000〜4万9000年前のネアンデルタール人との交わりを共通して受け継いでいた。つまりその頃、祖先は1つの集団だった。
どうやって: ドイツのラニスで見つかった約4万5000年前の人骨と、チェコの人骨のDNAを読み、ネアンデルタール人由来のかけらの長さから時期を推定した。
Sümerらは、アフリカの外で見つかる5万年より古い人骨は「別の集団」の人々だろうと書いています。早い時期の旅は実際にあったが、今の人の祖先の流れとは別だった、という見方です。
03 数字と例えでいうと30万年前・5万年前ってどれくらい昔?
地球の歴史46億年を1年にすると、ホモ・サピエンスが現れたのは大みそかの23時24分ごろ、今の人の祖先がアフリカの外へ広がったのは23時54分ごろです。
| できごと | 年代 | 地球の歴史を1年にすると |
|---|---|---|
| ジェベル・イルードのホモ・サピエンス | 約31万5000年前 [1,2] | 大みそか 23時24分ごろ |
| ギリシャ・アピディマの頭骨 | 21万年より前 [4] | 大みそか 23時36分より前 |
| イスラエル・ミスリヤの上あご | 約17万7000〜19万4000年前 [3] | 大みそか 23時38〜40分ごろ |
| アフリカの外の人の祖先がまとまっていた頃 | 約4万5000〜4万9000年前 [5] | 大みそか 23時54分ごろ |
計算は、年代÷46億×1年(52万5600分)で出しました。たとえば31万5000年は約36分なので、真夜中の36分前で23時24分です。
04 まだわかっていないことまだ謎なのは何?
ホモ・サピエンスがアフリカのどこで生まれたのか、早く外へ出た集団がどうなったのかは、まだ決まっていません。
- アフリカのどこで生まれたのかHublinらは、北アフリカのモロッコで古い化石が出たことから、アフリカ全体で少しずつ形ができた可能性を示しました。1か所で生まれたのか、各地の集団が交わりながらできたのかは議論が続いています。
- 早く外へ出た人々はどうなったのかミスリヤやアピディマの人々が、その後消えたのか、ほかの集団と交わったのかはわかっていません。その時代の人骨からDNAが取れていないためです。
- アピディマの頭骨は本当にホモ・サピエンスか頭骨のかけらは少なく、ゆがんでいます。研究者の間で解釈が分かれています。
05関連する記事
06よくある質問
人類はみなアフリカ出身なのですか?
はい。ホモ・サピエンスはアフリカで生まれたことが、化石とDNAの両方から示されています。今のアフリカの外の人の祖先も、もとをたどるとアフリカの集団です。
アフリカを出たのは1回だけですか?
いいえ。20万年前より前の化石もアフリカの外で見つかっており、何度か外へ出ています。ただ、今のアフリカの外の人の祖先にあたる集団は、約5万年前ごろに1つにまとまると推定されています。
ホモ・サピエンスはいつ生まれたのですか?
モロッコのジェベル・イルードの化石から、約31万5000年前にはいたことがわかっています。それより前の始まりの時期は、まだはっきりしていません。
出典
- Hublin JJ, et al. (2017). New fossils from Jebel Irhoud, Morocco and the pan-African origin of Homo sapiens. Nature 546, 289-292. https://doi.org/10.1038/nature22336
- Richter D, et al. (2017). The age of the hominin fossils from Jebel Irhoud, Morocco, and the origins of the Middle Stone Age. Nature 546, 293-296. https://doi.org/10.1038/nature22335
- Hershkovitz I, et al. (2018). The earliest modern humans outside Africa. Science 359, 456-459. https://doi.org/10.1126/science.aap8369
- Harvati K, et al. (2019). Apidima Cave fossils provide earliest evidence of Homo sapiens in Eurasia. Nature 571, 500-504. https://doi.org/10.1038/s41586-019-1376-z
- Sümer AP, et al. (2025). Earliest modern human genomes constrain timing of Neanderthal admixture. Nature 638, 711-717. https://doi.org/10.1038/s41586-024-08420-x
- Iasi LNM, et al. (2024). Neanderthal ancestry through time: Insights from genomes of ancient and present-day humans. Science 386, eadq3010. https://doi.org/10.1126/science.adq3010


