薬が効かない菌は進化の結果? 数字で見る薬剤耐性

細菌は条件がよければ数十分で分裂します。だから、ヒトなら何十万年もかかる数の世代を、研究室で数十年のうちに観察できます。薬の効かない菌は、その速い進化が病院や体の中で起きた結果です。
3行でわかる
- 薬が効かない菌は、薬で死ななかった菌が生き残って増えることで広がります。自然選択による進化の、目の前で見える例です。
- 大きな寒天の板の実験では、大腸菌が約10日で、最初の1000倍の濃さの抗生物質の中でも育つようになりました。
- 2019年、世界で約127万人が細菌の薬剤耐性が直接の原因で亡くなり、関わった死亡は約495万人と推計されています。
01 わかっていること薬が効かない菌は、進化でできるの?
そうです。菌の集団にはもともと少しずつ違う個体がいて、新しい変異も生まれます。薬を使うと効きにくい菌だけが残って増えるため、集団全体が薬の効きにくいものに変わります。
これは自然選択(生き残って子を残しやすい性質が広まること)そのものです。違うのは、選ぶのが自然ではなく、人が使う薬だという点だけです。
薬を使えば使うほど、効きにくい菌が生き残る機会が増えます。そのため薬剤耐性は、世界の保健の大きな問題になっています [4]。
02 どうやってわかったのか目の前で進化が見られた実験は?
大腸菌を何万世代も育て続ける実験と、抗生物質の濃さを段階的に変えた大きな板の上で菌を広げる実験で、進化がくり返し観察されています。
わかっているブラウントら(2008年、PNAS)/レンスキの長期進化実験[1]
1988年に同じ大腸菌から12の集団を始め、育て続けました。どの集団も3万世代以上、クエン酸を栄養にできませんでしたが、1つの集団だけが3万1500世代までに使えるようになりました。
どうやって: 毎日新しい培地に少しずつ移して育て、途中の世代の菌を凍らせて保存しました。保存した菌から「進化をやり直す」実験もでき、それより前に起きていた変化が下地になったことがわかりました。
わかっているグッドら(2017年、Nature)[2]
同じ12集団を6万世代まで、500世代ごとにDNAを読みました。速さは落ちながらも、6万世代を通して環境に合う変化が続いていました。
どうやって: 保存してあった各時代の菌の集団全体のDNAを読み、どの変異がいつ現れて広がったかを追いました。
わかっているベイムら(2016年、Science)/MEGAプレート[3]
縦60cm・横120cmの寒天の板に、端から中心に向かって抗生物質を濃くした帯を並べました。大腸菌は進むたびに耐性を持つものが現れ、広がっていく様子がそのまま見えました。
どうやって: 帯ごとに濃さを10倍ずつ上げ、天井のカメラで菌が広がる様子を撮り続けました [5]。最も耐性の強い菌が先頭とは限らず、効きやすい菌の後ろに閉じこめられることもわかりました。
わかっている薬剤耐性共同研究者(2022年、Lancet)[4]
2019年、細菌の薬剤耐性が直接の原因の死亡は約127万人、耐性菌が関わった死亡は約495万人と推計されました。
どうやって: 204の国と地域について、4億7100万件の記録や検体などのデータを統計モデルでまとめ、23種類の病原菌・88通りの菌と薬の組み合わせごとに推計しました。
03 数字と例えでいうと数字で見るとどれくらい?
実験室では10日ほどで1000倍の濃さに耐える菌が現れます。世界では、薬剤耐性が直接の原因で、1日あたり約3500人が亡くなっている計算になります(2019年の推計)。
| 項目 | 値 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| レンスキ実験で続いた世代 | 6万世代 [2] | ヒトの1世代を25年とすると150万年分 |
| クエン酸を使える菌が現れた世代 | 3万1500世代までに [1] | ヒトなら約79万年分。12集団のうち1つだけ |
| MEGAプレートで耐えた濃さ | トリメトプリムで最初の1000倍、約10日 [5] | シプロフロキサシンでは10万倍の耐性も現れた [5] |
| 耐性が直接の原因の死亡(2019年) | 約127万人 [4] | 1日あたり約3500人 |
| 耐性が関わった死亡(2019年) | 約495万人 [4] | 1日あたり約1万3600人 |
| 2050年の予測(直接の原因) | 約191万人 [6] | 2021年の約114万人から約1.7倍 [6] |
04 まだわかっていないことまだわかっていないことは?
実験室の進化と、病院や体の中で起きる進化がどこまで同じかは、まだわかっていません。死亡数の推計にも、データの少ない地域では大きな幅があります。
- 実験室と現実の差MEGAプレートの研究者自身が、板の上の進化は病院や体の中の進化をそのまま写すものではないと注意しています [5]。体の中では免疫や複数の菌が関わるためです。
- 推計の幅2019年の直接の原因の死亡は、幅をとると約91万〜171万人です [4]。検査の記録が少ない国では推計に頼る部分が大きく、実際の数はまだはっきりしません。
- 同じ変化が何度起きるかクエン酸を使う力は12集団のうち1つでしか現れず、それ以前の変化が下地になっていました [1]。大腸菌を6万世代育てた別の研究でも、適応は思っていたより複雑で、遺伝子の変化が入れかわりながら続いていました [2]。耐性がどの変化からどの順で生まれるかを前もって読み切ることは、まだできていません。
05関連する記事
06よくある質問
菌は薬に負けないように「努力して」強くなるの?
いいえ。菌の中にもともと少しずつ違う個体があり、たまたま薬に強い性質を持った菌が生き残って増えるだけです。目的を持って変わるわけではありません。
抗生物質を途中でやめると耐性菌が増えるの?
使い方は病気や薬によって違うため、自分で判断せず、医師や薬剤師の指示に従ってください。この記事では、薬を使うと効きにくい菌が選ばれるという進化のしくみまでを扱っています。
かぜに抗生物質は効く?
かぜの多くはウイルスが原因で、抗生物質は細菌に効く薬なので、ウイルスには効きません。必要のない場面で使うと、体の中の細菌に耐性が選ばれるきっかけになります。
出典
- Blount, Z. D., Borland, C. Z. & Lenski, R. E. (2008). Historical contingency and the evolution of a key innovation in an experimental population of Escherichia coli. PNAS 105, 7899-7906. https://doi.org/10.1073/pnas.0803151105
- Good, B. H. et al. (2017). The dynamics of molecular evolution over 60,000 generations. Nature 551, 45-50. https://doi.org/10.1038/nature24287
- Baym, M. et al. (2016). Spatiotemporal microbial evolution on antibiotic landscapes. Science 353, 1147-1151. https://doi.org/10.1126/science.aag0822
- Antimicrobial Resistance Collaborators (2022). Global burden of bacterial antimicrobial resistance in 2019: a systematic analysis. The Lancet 399, 629-655. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)02724-0
- Harvard Medical School (2016). Evolution in action (ScienceDaily 掲載のプレスリリース). https://www.sciencedaily.com/releases/2016/09/160908150908.htm
- GBD 2021 Antimicrobial Resistance Collaborators (2024). Global burden of bacterial antimicrobial resistance 1990-2021: a systematic analysis with forecasts to 2050. The Lancet 404, 1199-1226. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(24)01867-1


