ミトコンドリアはもともと細菌だった? 細胞内共生説はどうやって確かめられたか

私たちの細胞の中には、エネルギーをつくる「ミトコンドリア」という小さな部品があります。この部品は、自分だけのDNAを持っています。じつはミトコンドリアは、大昔にほかの細胞に取り込まれた細菌の子孫だと考えられています。
3行でわかる
- ミトコンドリアは、もともと独立して生きていた細菌が、ほかの細胞に取り込まれて住みついたものです(細胞内共生説)。
- 決め手はミトコンドリアが持つ自前のDNAでした。比べると、アルファプロテオバクテリアという細菌の仲間に近いとわかりました。
- 取り込んだ側は古細菌の仲間だと考えられています。2020年、日本の研究チームがその近い仲間を、10年以上かけて初めて育てました。
01 わかっていることミトコンドリアは本当に細菌だったの?
はい。ミトコンドリアのDNAを調べると、細菌の一系統であるアルファプロテオバクテリアの仲間に入ります。もとは細菌だったことは、研究者の間でほぼ合意されています。
ミトコンドリアは、動物や植物、きのこなどの細胞の中にある小さな部品です。酸素を使ってエネルギーをつくる場所として知られています。
ヒトのミトコンドリアは、細胞の核とは別に、自分専用のDNAを持っています。その長さは約1万6500文字分で、37個の遺伝子がのっています [5]。
細胞内共生説とは、「ある細胞が細菌を取り込み、細菌が中に住みついたまま、やがて細胞の部品になった」という考えです。共生とは、ちがう生き物どうしがいっしょに暮らすことです。
02 どうやってわかったのかどうやって確かめたの?
はじめは細胞の形からの仮説でした。その後、ミトコンドリアのDNAの配列を細菌と比べることで、細菌の仲間だと確かめられました。
有力な仮説リン・マーグリス(当時の名前はリン・セーガン。1967年、Journal of Theoretical Biology)[1]
ミトコンドリアなど、細胞の中の部品のいくつかは、もとは自由に生きていた別の生き物だったという考えをまとめて発表しました。
どうやって: それまでの細胞の観察をもとに、論文で考えを示しました。グレイの総説によれば、ほとんど忘れられていたこの古い考えを、マーグリスが1970年の本で本格的によみがえらせました [3]。
わかっているグレイ(2012年、Cold Spring Harbor Perspectives in Biology)[3]
ミトコンドリアのDNAを調べた多くの研究から、ミトコンドリアがアルファプロテオバクテリアの仲間から生まれたことは疑いがない、とまとめています。
どうやって: リボソーム(たんぱく質をつくる装置)のRNAの遺伝子などを、細菌・古細菌・核の遺伝子と比べ、系統樹(家系図)をつくりました。ミトコンドリアは細菌の枝の中に入りました。
わかっているロジャーら(2017年、Current Biology)[4]
すべてのミトコンドリアは、アルファプロテオバクテリアが、アスガルド古細菌に近い細胞に取り込まれてできた1つの祖先にさかのぼる、とまとめています。
どうやって: これまでの遺伝子の研究を集めた総説です。細菌が部品になるまでに、遺伝子の多くが核に移るなど、たくさんの変化が少しずつ起きたとしています。
有力な仮説井町寛之ら(2020年、Nature)[6]
深い海の泥から、アスガルド古細菌の仲間を10年以上かけて初めて育てることに成功しました。直径は約550ナノメートル(1ミリの約1800分の1)で、枝分かれした長い突起を持っていました。
どうやって: 研究チームは、この突起が細菌にからみつき、やがて取り込むという「からみつき・取り込み・内部化(E3)モデル」を仮説として提案しています。細胞の中に、ミトコンドリアのような部品は見られませんでした。
03 数字と例えでいうと数字でいうとどれくらい?
ミトコンドリアのDNAはとても小さく、ヒトでは遺伝子が37個だけです。細菌だったころの遺伝子の多くは、なくなるか核に移ったと考えられています。
| 項目 | 値 | 身近な例えでいうと |
|---|---|---|
| ヒトのミトコンドリアDNAの長さ | 約1万6500文字分(塩基対)[5]。全部の配列は1981年に読まれた [2] | 1ページ1000文字の本なら約17ページ |
| ヒトのミトコンドリアDNAの遺伝子 | 37個 [5]。うちたんぱく質の設計図は13個 [3] | 細菌だったころの道具箱の、ほんの一部だけが残った状態 |
| 井町らが育てた古細菌の大きさ | 直径約550ナノメートル [6] | 1ミリの幅に約1800個並ぶ |
| その古細菌が2倍に増える時間 | 14〜25日 [7] | 数が2倍になるのに、2週間から3週間半かかる |
04 まだわかっていないことまだ謎なのは何?
細菌がもとだったことはほぼ確かですが、取り込まれたのがいつか、どんな関係から始まったのかは決着していません。
- 取り込みはいつ起きたのか細胞に核ができた後に取り込まれたのか、取り込みと同時に私たちの細胞の型ができたのかは、まだ議論が続いています [3][4]。
- はじめはどんな関係だったのかはじめから食べられたのか、互いに物をやりとりする関係だったのかは、わかっていません [4]。井町らのE3モデルも、提案された仮説の1つです [6]。
- 取り込まれた細菌はどんな細菌だったのかアルファプロテオバクテリアの仲間なのは確かですが、今のどの細菌にいちばん近いのかは、研究によって答えが分かれています [4]。
05関連する記事
06よくある質問
ミトコンドリアは今も細菌なの?
いいえ。もとは細菌でしたが、遺伝子の多くを失ったり核に移したりして、今は細胞の外では生きられない部品になっています。
ミトコンドリアが自分のDNAを持っているのはなぜ?
もとが独立した細菌だったからだと考えられています。細菌だったころのDNAの一部が、今もミトコンドリアの中に残っています。ヒトでは37個の遺伝子があります。
細胞内共生説を考えたのは誰?
1967年に論文をまとめ、1970年の本で広めたリン・マーグリスがよく知られています。細胞の部品がもとは別の生き物だったという考え自体は、それより前からありました。
植物の葉緑体も同じ?
葉緑体も、光合成をする細菌が取り込まれてできたと考えられています。マーグリスの1967年の論文も、葉緑体をふくめて論じています。
出典
- Sagan, L. (1967). On the origin of mitosing cells. Journal of Theoretical Biology 14, 225-274. https://doi.org/10.1016/0022-5193(67)90079-3
- Anderson, S. et al. (1981). Sequence and organization of the human mitochondrial genome. Nature 290, 457-465. https://doi.org/10.1038/290457a0
- Gray, M. W. (2012). Mitochondrial evolution. Cold Spring Harbor Perspectives in Biology 4, a011403. https://doi.org/10.1101/cshperspect.a011403
- Roger, A. J., Muñoz-Gómez, S. A. & Kamikawa, R. (2017). The origin and diversification of mitochondria. Current Biology 27, R1177-R1192. https://doi.org/10.1016/j.cub.2017.09.015
- MedlinePlus Genetics (U.S. National Library of Medicine). Mitochondrial DNA. https://medlineplus.gov/genetics/chromosome/mitochondrial-dna/
- Imachi, H. et al. (2020). Isolation of an archaeon at the prokaryote–eukaryote interface. Nature 577, 519-525. https://doi.org/10.1038/s41586-019-1916-6
- Nature ハイライト(日本語版). 真核生物の起源に迫るアーキアの培養. https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/101868


